2025年度4号「つながる、ひろがる ヒト・モノ・コト」インタビュー

公開日 2026年02月16日

三鷹まちづくり通信2025年度4号(2026年2月16日発行)

100個のプランターから100年の森へ「グリーンインフラ100プロジェクト」

 三鷹中央通りを歩くと、道や建物の片隅に緑が少しずつ増えていることに気づきませんか。それは、「100個のプランターから、まちに緑の空間づくりを始めよう。」という思いで進められている「グリーンインフラ100プロジェクト」から生まれたものです。
 この活動の仕掛け人のひとりである一般社団法人ミタカエリアデザイン代表 笠置秀紀さんに、プロジェクト立ち上げの経緯や現在進めている取り組みについて伺いました。

人がつながるまちづくりの原点

 プロジェクトでは、プランターの製作や土づくり、苗木の植え替えにも自ら携わる笠置さん。その本業は建築家です。建築家を志したきっかけを尋ねると「絵と飛行機が好きで、本当は飛行機を設計したかったんです。建物についてはウルトラマンなどの特撮に出てくる、壊されてしまうビルの小さな模型がなぜか好きで、それがきっかけでいろいろな視点から建物に興味を持つようになりました。」と、少年時代の記憶をたどるように、笑顔で話してくれました。

 大学では空間デザインコースで学び、都市論への理解を深めていく中で、関心は建築の構造や形といったハード面から、さまざまな分野と都市の関係性、人と都市とのつながりといったソフト面へと移っていったといいます。

 2000年に建築ユニット「mi-ri meter(ミリメーター)」を結成。2014年に設立した「株式会社小さな都市計画」では、「SHINJUKU STREET SEATS」などの社会実験を通じて、まちの中心を車から人に転換する公共空間での試みに設計やデザインで関わってきました。またその一方で「街のリビング」と名付けた、現在でいうコミュニティカフェやサードプレイスにあたる空間の企画から施工、運営までを一貫して手がけてきました。その中で2014年、井の頭にシェアキッチンとシェアオフィスを併設した自身の事務所「場所#4(バショイノヨン)」を構えたことが、三鷹との関わりの始まりです。

止まった日常から始まった一歩

 2020年、新型コロナウイルスの影響で人の集まりが制限され、三鷹中央通りで開催されていた「Mマルシェ」をはじめ、さまざまなイベントが相次いで中止となりました。通りからは、日常の賑わいが姿を消していきます。

 そんな中、商店会や市民有志の間から、日常の風景を見直そうという声が上がり、活動が生まれます。笠置さんも、まちづくりに携わる建築家としてその輪に加わりました。

 「まずは、自主的にいろいろなプロジェクトをやってみよう。できることから始めよう。」
そうして動き出したのが「ミタカエリアデザイン」の前身となる任意団体「Walkable Mitaka あるけるミタカ研究所」です。当初は、歩きやすいまちづくりを目指し、この名前が付けられました。

 そして、活動を続けるうちに、団体を法人化したいという思いがメンバーの間で次第に強くなっていきました。補助金の活用や他の団体との連携など、活動の幅を広げるには法人格があった方がスムーズだと考えたからです。2024年10月、初期から活動に関わってきたメンバーを中心に「一般社団法人ミタカエリアデザイン」が設立されました。

三鷹中央通りの植栽に設置されている「グリーンインフラ100プロジェクト」のプランター
三鷹中央通りの植栽に設置されている「グリーンインフラ100プロジェクト」のプランター

「百年の森」を足元から育てる

 「歩行者天国にベンチを置こう」「商店会の軒先を緑化しよう」など活動を重ねていく中で、メンバーからは、さまざまなアイデアが生まれました。アイデアを元にした小さなプロジェクトをつなげて、1つの大きな取り組みとして始まったのが「グリーンインフラ100プロジェクト」です。

 プロジェクトの背景には、三鷹市の三鷹駅前再開発事業における三鷹駅前地区の今後のまちづくりのコンセプトである“百年の森”の構想があると笠置さんは話します。三鷹駅前を緑でいっぱいにするという壮大で夢のある計画である一方、自分事として考えた時、何から始めたらいいのかを模索しました。再開発はスケールが大きい分、小さなことが後回しになり、置き去りにされてしまうことも少なくありません。笠置さんたちの活動の原点には、中央通りをはじめとする、まちの「ストリート」をよくしたいという思いがあります。そこで、最初に小さな仕組みのレシピをつくっておけば、あとから「ストリート」と再開発を結びつけることができる。小さな取り組みでも、積み重なればそれが居心地のよい場所づくりにつながる。そんな期待を込めて「百年の森」の“100”に重ね、プランターを100個設置することを目標として、活動を始めました。

 まずは、中央通りに元々あった笹が植わっていた植栽帯を三鷹市に掛け合ってプランターの設置場所として確保しました。そして、平日の夜、プロジェクトメンバーや三鷹市や再開発に関わるスタッフの皆さんが集まり、プランターの製作を行いました。そこに、三鷹の天神山須藤園さんのオリーブや三鷹緑化センターで購入した草木などを植えて、植栽帯や協力してくれる店舗の軒先に置いてもらっています。

 また、2025年5月に開催された「百年の森フェスタ」や中央通り商店街で行われているエコマルシェなどにも参加しました。プロジェクトの活動を紹介し、「百年の森フェスタ」では、三鷹園芸緑化組合をはじめとした各団体と協力して、三鷹駅前に1日限りの小さな森をつくろうと、植木市を中心としたイベントを開催しました。

 ミタカエリアデザインではほかにも緑を広げる活動として、三鷹中央通りの「スペースあい」の前に堆肥をつくるコンポストを設置し、それを拠点として家庭の生ごみから地域で活用する土づくりにつなげていく「PUBLIC SOIL CLUB」という活動にも取り組んでいます。地域の関心は高く、年に数回開催している講習会には多くの人が参加しています。また、三鷹市生活環境部と連携した取り組みでは、各家庭で堆肥化したものの回収に加え、生ごみをそのまま持ち込んでもらい、コンポストや堆肥化を学ぶ場も設けています。参加者同士はLINEグループでつながっていて「生ごみを食べてくれるので、コンポストはペットみたい。」「なぜ今まで生ごみを捨てていたんだろう。」といった声が寄せられています。

コンポスター 苗木
「PUBLIC SOIL CLUB」コンポスター「SOIL STAND」その上でも苗木が育てられている。
デザイン・設計:アラキ+ササキアーキテクツ

できることから、続けていくまちづくり

 「プロジェクトの目的は抽象的ですが、とにかく、人が幸せに暮らせるまちをつくりたいというところにあります。」と笠置さんは語ります。プロジェクトを進めるうえで大切にしているのは、小さなことから始めてみることです。まずは体を動かし、不完全でもやってみる。実験とDIYの精神を軸に、試行錯誤を重ねながら取り組んでいます。

 同時に、頑張り過ぎないことも大事だと話します。これまでの活動の中では、アイデアを出した人が無理を重ね、次第に参加できなくなってしまったこともありました。それぞれの取り組みは有機的につながっていくもの。今では、誰かが投げかけたアイデアを、みんなで拾い合うようにしてプロジェクトを進めています。

 現在、グリーンインフラ100プロジェクトでは、100個のプランターを一緒にお世話してくれる100人のパートナーを募集中です。活動の様子は、SNSでも発信しています。

 今後の展望について、笠置さんは、再開発が進む間もまちの流れを途切れさせないようにするためのプロジェクトを続けていきたいと話します。まちの緑も大切ですが、商店街にとっては商いが何より大事。たとえ工事の囲いができたとしても、商業が止まらない仕組みをつくれたらいいと考えています。

 例えばキッチンカーは、これまで「Mマルシェ」にも出店してもらった経験があります。そうした取り組みの延長線上として、無理のない形で、できることから始めていく。これからも、まずはやってみようの精神です。

 笠置さんにとって、三鷹は普段着で日常使いできるまち。開発が進んでも、人の距離感や日常のスケール感を大切にしたい。その思いを胸に、まちに緑を増やしていきます。

一般社団法人 ミタカエリアデザイン 代表 笠置 秀紀さん

編集後記

 家でくつろぐ格好のまま出かけられる気軽さが、三鷹駅前の中央通り商店街にはあります。車の往来も少なく、店先に並ぶプランターの緑を眺めながら歩くには、ちょうどいいスケール感。新しく生まれ変わるまちも楽しみですが、今あるこの抜け感も、このまま残ってほしい。そんなことを思いながら、通りを歩きました。

■ 一般社団法人 ミタカエリアデザイン 各SNSへのリンク
ライター:細川優子

愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。

ライター:細川優子