公開日 2024年08月30日
三鷹まちづくり通信2024年度2号(2024年9月1日発行)
今年5月、三鷹中央通り商店街に「ワイン初心者が楽しめるお店」がコンセプトの「ワインショップ Everyday」がオープンしました。
代表の金野将志さんに、三鷹でワインショップを開業するまでの経緯や、その中で生まれた地域とのつながり、そしてコンセプトを軸にこだわり抜いたお店作りについて伺いました。
理想のワインショップを目指して
東京下町の居酒屋に生まれた金野さんは、その影響もあり、大人になって、お酒を嗜むようになりました。ただし、一番興味を惹かれるようになったお酒は、実家では提供していなかったワインでした。「ワインを好きになったのは社会人1年目の時です。それまでもたまにワインを飲んではいましたが、ある時、飲んだワインがなんか違うな、美味しくないなと思い、理由を調べたら、ブドウの品種の違いだということに気がつきました。それをきっかけに品種について調べていくうちに、ワインに興味を持ち、ハマっていきました」とワインとの出会いを金野さんは話します。
そうしてワインにハマっていく中で、ワインショップにも足を運ぶようになりましたが、金野さんの中で疑問が浮かぶようになりました。「ワインはあくまで嗜好品なので、気軽に楽しめればいいのに、なぜワインショップはお高く留まっていて、敷居が高い場所なんだろう」
その後会社勤めを続けるうちに、好きなことを仕事にしたいと考えるようになった金野さん。お酒関係の仕事への転職を模索する中、ある考えに至りました。「せっかくワインショップに対する疑問を持っているのだから、自分がやってもいいんじゃないかと思い立ちました。気軽に寄れるけど、しっかりこだわっているワインの専門店です」
自分でお店を開業することを決断した金野さん。その準備をする中で大変だったことは、「どのような手順で何をしなければならないかを整理することが一番大変でした。事業計画を立て、仕入れ商品を決め、物件契約をするなど、準備しなければならないことが多くありますが、誰も教えてくれません。ビジネススクールにも通い、経営の勉強をしましたが、経営概論やマーケティングの一般論は学べても、実務的な部分は学べませんでした。お酒の販売免許の申請にかかる時間や、販売免許を持っていないと仕入先が対応をしてくれないことなどわからないことだらけで、自分で一から調べて、スケジュールを組み立てて進めていくことにとても苦労しました」と金野さんは当時の様子を振り返ります。そして、店の開業に向けて取り組む中で、金野さんは地域の支援サービスを活用しようと思いつきました。起業・創業支援を行っている株式会社まちづくり三鷹の「起業・創業サービス」で専門家の助言を受けるなど、特定創業支援等事業を利用しました。また、地域の小規模事業者に対して様々な支援を行っている三鷹商工会にも、些細なことでも相談することができました。それらのサービスを利用したことは大いに開業の助けになったそうです。
三鷹での開業と地域で得たつながり
開業の地に三鷹を選んだ理由について金野さんに尋ねました。「まず、個人経営のワインショップや酒屋があるエリアにあえて出店しようと考えていました。チェーン店しかない場所だと、人は、個人店に入りづらいと感じる消費行動があるからです。構想していた気軽に寄れるワインショップは、地域にある既存店のコンセプトと異なることで、共存できると考えました」そして最終的に候補としたのは、中央線沿線のエリアでした。いろんな地域を巡る中で、三鷹は人口がありながら落ち着いた雰囲気で、個人店もあり、商売がしやすそうという印象を持った金野さん。三鷹に出店しようと決めた後、1年程をかけて物件を探し、やっと三鷹駅南口から徒歩5分という好立地の今の物件に巡り合ったそうです。
今回開業するまで三鷹と関わりがなかった金野さんですが、地域とのつながりが広がっています。「開業するにあたって、お店があるエリアの三鷹中央通り商店会に加入しました。会長さんが折に触れ気にかけてくださり、店によく訪ねに来てくださいます。開業してから初の商店会でのイベントだった『ふるさと三鷹 夏まつりマルシェ』では、店頭でその場で飲めるグラスワインや缶ワインを販売しようとしていたところ、会長さんから休憩しながら飲めるようにしたらどうかとアドバイスをもらい、商店会の備品の人工芝を貸してもらいました。そして、お客様が座ってワインを飲めるようにしたことで、大盛況でした。今度開催される「三鷹阿波おどり」でも何かしようと考えています。三鷹歴は短いですが、三鷹商工会の阿波おどり担当の方にいろいろと教えてもらいながら進めています」新しい仲間が増え、応援したいという周囲の期待と、それに応え、商店会の盛り上がりに貢献したいという志が、まちのにぎわいにつながっているようです。
お客様でにぎわった『ふるさと三鷹 夏まつりマルシェ』
新しいワインショップを目指したお店づくり
「ワインショップ Everyday」の店内は明るく棚もカラフルに色分けされ、カジュアルな印象になっています。内装はクラシカルだったり、木目調だったりというような、いわゆるワインショップらしい感じにしないことを意識したそうです。ワインは産地別ではなく、白ワイン・赤ワインなどのジャンルと、その味わいごとに並んでいます。ワインはたまに飲むけれどよくわからないという人でも気軽に来ていただけるお店にするため、分かりやすく、敷居が高く感じさせない雰囲気づくりを大事にしているというのが伝わってきます。
店内には現在、約210種類の厳選したワインが並びます。ワインの品質を第一に考え、この店で扱っているワインはすべて金野さん自身が飲んで選んでいるそうです。飲んでみて、お客様に自信を持ってお薦めできるかと考えた時、少しでも引っかかる部分があれば採用しません。そして、気軽に手に取って毎日でも飲むことができるように、千円台から4千円程度までの手頃な価格帯で揃えています。高いワインが並んでいると、それだけで”高めのお店”という印象を持たれ、お客様が気おくれしてしまいます。そのため、もし扱いたいと思ったワインであっても、価格帯が合わなければ扱わないようにしているとの徹底ぶりです。
味わいごとにカラフルに配置された商品棚
毎日営業の気軽なお店を目指して
実際に開店してみての地域の印象を伺うと「お客様は開業前の想定どおり、地元の人がほとんどです。ただ、三鷹は年配の方が多いイメージでしたが、思ったより若い人が来てくれます。若い人は休日には都心へ行くと思っていましたが。想定していた以上に、20代・30代の方が利用してくださいます」。
お客様からは、ワインはよくわからないのでお薦めを教えて欲しい、この料理に合うワインはどれかという相談が多いそうです。お客様と好みに合うワインを一緒に選んでいくのがこの店のスタイルで、そのための仕掛けとして、試飲のワインを常に用意しています。「一口飲んでいただくと、そのワインと比べて、もっと渋い方がいいとか、もう少し甘い方がいいとか、スタッフと共有できる基準ができます。試飲はお客様とのコミュニケーションの架け橋になるツールだと考えています」と、金野さんは試飲の大切さを語ります。
さらに、店内にはワインについてのオリジナルの資料も用意され、ワインの美味しい飲み方と簡単な知識がわかるようになっています。「ワインの専門家からすると、ざっくり言い過ぎだよと怒られるかもしれません。でも、今日自分が飲んだワインはどういう位置づけなんだろう、次はどんなワインを飲んでみようと、少しでも興味を持ってもらえたらと思っています」とワインに親しんでもらうための工夫を凝らしています。
今後の展望について伺うと、「正直まだ分からない部分があります。アルバイトにも入ってもらい始めたので、時間に余裕ができたら、イベントやインターネット販売も始めたいですし、2号店、3号店を出すことも検討していきたいです。でも目先のやりたいことは定休日をなくすこと。毎日気軽に利用できるお店なので、お盆、年末年始以外はいつ行っても開いているお店にしたいです」と金野さん。その名の通りワインと人の毎日をつなぐ『Everyday』なお店を目指してチャレンジを続けていきます。
(2024年8月7日、ワインショップ Everydayにて取材)
- オリジナルのワイン資料
- 「ワインショップ Everyday」と金野さん
編集後記
「ワインショップは敷居が高い」という金野さんの言葉に、思わず大きく頷きました。
私の足をワイン専門店から遠ざける「おすすめの美味しいワインはお高いんでしょ?」や「味見しないけど気に入るかな?」という不安を一掃してくれるEverydayさん。ワクワクしながらワイン選びを楽しめるお店です。まちに個性のあるお店が増えると嬉しいですね。
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ライター:細川優子