2024年度1号「つながる、ひろがる ヒト・モノ・コト」インタビュー

公開日 2024年07月01日

三鷹まちづくり通信2024年度1号(2024年7月1日発行)

家族の愛した料理を生まれ育ったまちに届ける。地域への思いとこだわりがつまったレストラン「下連雀テラス」

 今年5月、風の散歩道から南へ百メートル。住宅街の真ん中にレストラン「下連雀テラス」がオープンしました。一軒家を改装した店舗の入口に飾られている、ゾウのはな子が描かれた青い表札が目印です。
 オーナーである並木 敏夫さんが、生まれ育ったまちでセカンドキャリアとしてレストランを開業するに至った経緯や、「家族のため」から始まった料理に込める想いを伺いました。

家族のための料理から新しい出発

 「料理に関して起点となった忘れられない思い出があります。小学2年生の時、母と姉が風邪で寝込んだのです。父は会社で不在でした。その時、りんごを剥いて持って行ったらすごく感謝されて、それが料理を始めるきっかけになりました。」

 並木さんは生活の場であり、店舗としてセカンドキャリアの出発の場にもなった生家での思い出を語ってくれました。

 結婚し、お子さんが生まれた後は、家族のために週に2,3回作る程度だった料理を、いつしか毎食作るようになっていたそうです。その理由を並木さんはこう振り返ります。

 「一つは、娘が中学にあがった頃、反抗期で何も話をしてくれなくなりました。そんな時、お弁当を作って空の弁当箱が返ってくると嬉しかった。もう一つは、3度の飯を作るようになった頃、実は、仕事が一番忙しい時期でした。私は仕事のストレスは同じくらいの全く違うストレスでないとカバーできない質です。その頃、一番料理も作ったし、一番飲みにも出かけて、色々な人と話しました。仕事している自分と、父親であり夫である自分と、それから個人で楽しむ自分と、この三つのバランスをいかにとるかが私のモットーなんです。」

 エンジニアとして会社勤めをしていた並木さんが、退職後に趣味の料理で店を開きたいと思い始めたのは、今から10年位前のこと。

 「人は美味しいものを食べると頑張ろうと思う。ずっとそういう想いで家族に作ってきたから、他の人にも同じ気持ちで料理を提供できたらいいなと考えました。」

 その想いが膨らみ『下連雀テラス』の開業に至りました。家族も料理の試食やSNS映えのアドバイスをするなど、並木さんの新たな挑戦を応援しています。

 勤めていた会社を退職後、並木さんが飲食店をオープンさせることを考えた時、今までの仕事とは全く異なる飲食業界に飛び込むためにまずは知識を得ようと、三鷹市の第三セクターである株式会社まちづくり三鷹が開催している「みたか起業塾 特定創業セミナー」に参加しました。このセミナーは創業期に必要なことを体系的に学べるセミナーです。その後、自分の事業に合わせて個別相談できるコーディネーター相談を現在に至るまで何度も利用しました。「家でペットを飼っているので、最初、店内はペット可にしようと思いました。しかし、ペットを嫌う方も意外といらっしゃると教わり、最終的にはテラス席を設け、そこをペット可にしました。」コーディネーターの先輩飲食店経営者からの具体的なアドバイスは開業にとても役立つものだったと振り返ります。

 開店前に「量り売りとまちの台所 野の」のシェアキッチンを利用してプレオープンを行いました。その時、サポートしてくれたのは藤田さんです。(まちづくり通信2023年1号)店を一人で切り盛りする大変さを知った並木さんは、その経験を座席はカウンターのみ8席にすることや料理に専念できるように大型食洗機の導入など開店準備に活かしました。

下連雀テラス
人気メニュー:三鷹ハッシュドビーフセット

長年のこだわりと思いが詰まったお店

 生まれ育った自宅を店舗にした理由について、並木さんは「セカンドキャリアとして考えた時、どこかを借りた場合の家賃の重みや、仮に店を畳むときに原状回復が必要になり、投資が無駄になってしまう。自宅ならリビングとしても使えるし、他の人に貸し出すこともできます。だから、最終的には自宅で店を開くことに決めました。」と語ります。

 店作りには現役時代に培われたものづくりに向けるこだわりが随所に見られます。「私は現役時代はバイクの開発が仕事でしたが、常に量産化されたニューモデルが販売店に並んだ製品をお客様がどうみるか、そのイメージをいつも頭の中で繰り返し思い描きものづくりをしてきました。何に対しても常に完成形を思い浮かべます」。店で使う有田焼の器は、現役時代の赴任先だった熊本で気に入って家族のために買ったことがきっかけとなり、いつか店を開く時に使いたいと10年かけて少しずつ集めてきました。

 「特にこだわったのは、ステンドグラスですね。これは近くにある山本有三記念館と同じデザインです。子供の頃、児童図書館だった山本有三文庫に、秘密基地のようなワクワクした気持ちで毎日通いました。山本有三記念館となった今でも月に1度はボランティアガイドをしているのですが、そこのステンドグラスを測定して図面を描いて、ステンドグラス職人のところに持って行き、口説いて作ってもらったものなんです。他にもカウンターの木は使っていく中で風合いが増すブラックチェリー、床のフローリングはヘリンボーン張りになっています。仕上がりは美しいですが、貼る職人さんは大変なんですよ。」と随所のこだわりを教えてくれました。

こだわりのつまったカウンター
入口を彩るステンドグラス

離れて気づいた、まちの良さ

 両親が三鷹に居を構え、そこで生まれ育った並木さん。「この環境が当たり前だったので、いいとか悪いとか考えたことがありませんでした。それが仕事で海外と九州に転勤で住んだ後、10年以上離れて三鷹に戻ってきた時、他と比べると何ていい環境なんだと初めて気づきました。それから、このいい環境を守っていきたいという意識が芽生えました。」

 並木さんは三鷹とのつながりは、「『マチコエ』に参加したのが大きかった。」と思い返します(マチコエ:三鷹市が令和3年7月から令和5年12月まで設置した「市民参加でまちづくり協議会」の通称。) 「マチコエ」では文化歴史グループで活動しました。「『マチコエ』の活動が終了し、拠点となっていた事務所はなくなりましたが、今もまちづくりに関係する活動を継続している人が僕の周りにはたくさんいます。この店がそういう人たちが集まって気軽に話ができる場所になればいいなと思っています。店の奥のスペースを活用して、ワークショップなどもできる場所にしたい。私がやりたいのは地元好きな人が集まる店なんです。」

 店内には「三鷹・武蔵野 歴史とまちづくりコーナー」が設けられており、昔のまちの写真や「マチコエ」の資料などが並んでいます。「マチコエ」のかたわら、杏林大学のまちづくりコーディネーター養成講座を受講。1年間、社会人履修生として現役大学生と机を並べて学んだことも大きな刺激になったそうです。


三鷹・武蔵野 歴史とまちづくりコーナー

住宅街ならではの地域交流の場

 自宅で開業したことで地域につながりができました。「たまたま店のすぐ近所の方が店で一緒になって、地元の話になりました。話をすると、人となりがわかりますよね。ご近所同士がお互いわかり合える。こういう副次的効果があるんだと驚いています。それから、小学校の同級生が来てくれます。思った以上にみなさん地元で仕事をされている。私は三鷹との関わりは中学までで、高校から先は、地元の仲間と話をすることはなかった。彼らは今でも一緒にゴルフをするみたいで、そんな結びつきがあったんだと知りました。」 地元好きだけでなく、半個室で子ども連れのお客様が休んだり、犬の散歩の途中にテラスを利用したり、下連雀二丁目界隈に住まう人にも憩いの場ができました。 今後、どのような店にしたいか伺うと「お酒が好きなので、17時からは気軽にお酒を飲みに来られる店にしたいです。私が今までに飲んで気に入ったお酒を語りながら提供できる店です。」すでに何のお酒をどのように出すかは決めてあるそう。お客様とのお酒談義に花が咲く場面を繰り返し思い浮かべながら、カウンターの中で、今日も料理の準備をしています。

店の奥、話も弾む個室席
仕込みをする並木さん

編集後記

 お店に伺ったらぜひ見て欲しいのが、並木さんがステンドグラスの次にこだわったというトイレ。なかなか決まらずショールームを20か所くらい見て回るなか、あるコーディネーターさんの「お店の雰囲気とは違って中に入るとモチベーションが上がるトイレ」という言葉にヒントを得て、そのイメージを完成させました。私はモチベーションが上がりましたが、みなさんはいかがでしょうか。

■ 下連雀テラス
三鷹市下連雀2-13-33
TEL 0422-43-5309
営業時間 木・金11:30~14:30・17:00~20:00/土11:30~14:30・17:00~22:00
定休日 日~水
Instagram

ライター:細川優子

愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。

ライター:細川優子