公開日 2022年12月01日
三鷹まちづくり通信2022年度3号(2022年12月1日発行)
市場に出回らない農産物を栄養豊富な野菜パウダーに加工する画期的な機械を作ったのは、三鷹にある株式会社ティーフォース。機械の販売だけでなく、地域の人とつながりながら、私たちが生きていくうえで大切な食にまつわる様々な課題に取り組んでいます。今回は代表の坂田康二さんに三鷹で起業したきっかけや、製品開発にかける想いを伺いました。
未利用農産物の有効活用
■インタビュー 株式会社ティーフォース 代表取締役 坂田康二さん
畳3枚程のコンパクトなスペースに設置された銀色の機械。三鷹市下連雀にある株式会社ティーフォース 代表取締役 坂田康二さんが手掛けた瞬間乾燥粉砕システム(以下、ターボドライシステム)です。
このターボドライシステムの特徴は、瞬間的に原料を乾燥、粉砕することで、野菜に含まれるポリフェノール、カロテンなどの機能性成分の熱劣化を極めて小さく抑え、高濃度で凝縮できるそうです。しかも含有水分が4%以下とわずかなため、非常に保存性が高いことも、この機械で作る野菜パウダーのメリットです。
前職でナノテクノロジーの材料や機械開発の経験をお持ちの坂田さん。前職の経験を活かしながら、ターボドライシステムの共同開発を検討していましたが、初めての試みのため実用化を疑問視されることもあり、ならば自分が、と自ら開発に乗り出しました。それは、食品ロスに貢献したい、というひとつの想いから。「市場に出回る前、つまり農家さんが出荷できずに廃棄する野菜は、全国でどのくらいの量になるかご存知ですか。統計はありませんが、農家さんに聞くと約1~2割程度が不揃いなどを理由に廃棄されているそうです。この野菜たちを何とかしたいと思いました。」と坂田さんは語ります。
坂田さんの開発したターボドライシステムは農産物の生産者が手軽にパウダー事業を始められるよう、設置面積を極力小さくして一人でも動かせる機械を目指し、民家の軒先サイズまで小型化、2019年に完成しました。坂田さんは、「ただ機械を売ればいいという訳ではなく、生産者さんが活用できるようなシステムを提供することが大切。そうすれば、三鷹のように少量、多品種を栽培する生産者さんにも使ってもらえるのではないかと考えています。」と、開発への想いを話してくれました。
瞬間乾燥粉砕システム(ターボドライシステム)
三鷹産野菜をパウダーに
坂田さんは熊本のご出身。九州で仕事をされていましたが、1993年、転勤で東京へ。勤めていた会社の社宅が三鷹にあったことが縁で三鷹に定住し、前の会社を辞めた2010年に、市内に会社を設立されました。
住宅地が多く、工業・商業用地が少ない三鷹の環境を挙げ、「難しそうなことにチャレンジするには面白い場所ではないかと思いました。」と振り返ります。
「三鷹は都市部でありながら、これだけの農地が残っていることが奇跡的ですね。」と坂田さん。機械の製造を行いながら、生産者からの依頼で野菜パウダーを試作しています。
三鷹産のパウダーを作るきっかけは、野菜パウダーを使った調理会でした。その会に、坂田さんの奥様のお知り合いで、三鷹まちづくり総合研究所に設置された持続可能な都市農業に向けた研究会 研究員 ルモアン 直美さんが参加。ルモアンさんを通じて、市内で減少する農地の保全と、都市農業の発展を目指して様々な事業に取り組む株式会社三鷹ファームさんや、三鷹で約300年続く植木生産農家で、現在は植木生産の技術を活かしオリーブを使った商品開発に取り組む天神山須藤園さんとつながりました。
三鷹ファームさんからの依頼では、三鷹ファームさんが栽培した小麦玄麦をターボドライで製粉して全粒粉にし、市内のパン屋さんであるトーホーベーカリーさんが全粒粉入り食パンに焼き上げました。
須藤園さんからの依頼では、オリーブの葉をパウダーにし、それが「オリーブリーフパウダー」として商品化され、JA東京むさしの三鷹緑化センター等で販売されました。出来上がったパウダーを目にした須藤さんは「すごい、こんなきれいなパウダーは見たことがない!」と、その色の鮮やかさに感激されたそう。同じ三鷹市内で加工場と農園の距離が近く、摘み取った葉を翌日にすぐパウダーにしたことと、ターボドライシステムの特徴として乾燥変色がないことが、オリーブの葉が本来持つエメラルドグリーンの色を劣化させずそのままパウダーの色として出すことができた要因だそうです。
天神山須藤園さんで商品化されたオリーブリーフパウダー
食品ロスの有効利用に貢献したい
2021年に、多摩信用金庫が主催する「第19回多摩ブルー・グリーン賞」で、ターボドライシステムが多摩ブルー賞(技術・製品部門)の最優秀賞を受賞したことも話題になり、三鷹の他の生産者も見学に訪れるようになりました。三鷹市内では廃棄する野菜は比較的少ないそうですが、出荷ができない割れた人参や不揃いのほうれん草もパウダーに加工。こういった廃棄野菜をパウダーにすれば、収穫時期以外でも濃縮された栄養成分を摂取できます。また、太陽の光をたくさん浴びることで野菜の抗酸化活性の栄養素が増すため、旬の露地栽培の野菜を使うことにもこだわっています。
成人の1日の野菜摂取目標は350グラムとされていますが、実際の平均野菜摂取量は100グラム程度足りないのが現状です。野菜パウダーならその不足分を10グラム程度で補うことができるそうです。食品ロスをなくすだけでなく、栄養素の補給にも野菜パウダーは役立ちます。
家庭料理での使い方を伺うと、「皆さんによく聞かれますが、調理の最後にパウダーを混ぜるだけです。例えば、グリーンカレーの仕上げにほうれん草パウダーを加えたり、おにぎりの仕上げに海苔やふりかけと同じようにまぶしたり。鮮やかな色の料理は子どもも喜んでたくさん食べてくれますよ。」と教えてくれました。お茶のようにお湯に溶かして飲むと飲みやすく体にも良いそうで、「実は、焼酎におすすめ。」と坂田さん。ご自身は、パウダーを入れると悪酔いも二日酔いもしないとこっそり教えてくれました。三鷹駅前の「酒道ハナクラしぞ~かおでん三鷹店」さんでは、野菜パウダーを使ったほうれん草ハイを提供しています。
ビーツのパウダーも色鮮やかな発色でした。
みんながハッピーになれるまち、三鷹へ
「三鷹の印象は?」との質問に「三鷹はとてもまとまりがあり、主動となる人もいるまちですね。野菜の減農薬栽培にも取り組んでいる。地域に農地があることや農産物に関心のある方が非常に多く、食に関する関心の高さを感じます。野菜や自然は“あるのが当たり前”の僕ら九州人には無い感覚です。」と坂田さん。
今後の展望を伺うと、「農地の隣に野菜パウダーの加工センターを設立し、地域農業の活性化に貢献したい。」とのこと。「近隣の農家から余剰野菜や売れない野菜を持ってきてもらい、それをパウダーに加工する。農家さんの新たな収入源になり得るし、パウダーを作る事業者も儲かる。地域の人は食生活に取り入れて恩恵を受ける。みんながハッピーになれて、誰も損をしない事業だと思っています。パウダーは長い期間保存ができるので、非常時に不足する栄養素を補う備蓄食料としても活用できます。資金調達面で課題はありますが、実現させたいですね。」と、力強く語ってくれました。
露地野菜を使った「九州ベジパウダー」が商品化されているそうです。
■ 株式会社ティーフォース
所在地:東京都三鷹市牟礼4-20-19
WEBサイト等:株式会社ティーフォースホームページ・Facebook
愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。
ライター:細川優子