公開日 2021年07月01日
三鷹まちづくり通信2021年1号(2021年7月1日発行)
東京・多摩地域と23区の境目に位置する三鷹市は、駅前を中心に商業地や住宅街が形成され、同時に公園緑地や畑、木立などが数多く存在する、都市と自然の調和が取れたまちです。そんな三鷹が「好きだから」と、自然の大切さを伝え、地域に緑を残すための活動に若手農業者が取り組んでいます。その取組み内容や想い、今後の展望について紹介します。
農家さんが始めた三鷹の“どんぐりプロジェクト“
三鷹どんぐりプロジェクトは、どんぐりを植え、木を育てる「どんぐり蒔き体験」などから緑を育む大切さを教える『緑農教育』を目的のひとつとしています。この取り組みは2019年から若手農業者で構成される東京むさし農業協同組合三鷹地区青壮年部の人たちによって始まりました。これまでに三鷹市農業祭や三鷹駅南口中央通りのイベント・M-マルシェ、地域の小学校での出張授業などで、どんぐり蒔き体験を中心としたイベントや講座を開催してきました。
プロジェクトを始めようと思ったきっかけはーーー
「私の生まれ育った三鷹の地で、農業を通して緑・自然の果たす役割や次世代へ育み残す大切さを、こどもから大人まで誰にでも分かりやすく伝えたいとの想いからです。」と話すのは、東京むさし農業協同組合三鷹地区青壮年部部長の小林孝正さん。ご自身は植木の生産・販売など緑を育てる仕事をされています。三鷹の農業には多様な形態がありますが、その中で植木の生産・販売をしている農家も多く、三鷹市内の植木農家さんの知識も借りながらどんぐりプロジェクトを進めているそうです。
そもそもなぜ、どんぐりだったのかーーー
「誰もが一度はどんぐり拾いをしたことがあるくらい、どんぐりって身近で親しみやすいものですよね。三鷹の農業を通じて木や森といった自然を残すことをみんなに伝えたいと考えたとき、どんぐりがイメージとしてぴったりだと思いました」。
- 東京むさし農業協同組合三鷹地区青壮年部部長で植木農家の小林孝正さん
体験会で植えてもらったどんぐりの苗木は今も成長中。将来の森に
「どんぐりプロジェクト」の活動を率先して進めされている伊藤紀幸さん(東京むさし農業協同組合三鷹地区青壮年部副部長)は、市内でも特に自然の風景が多く、農業が盛んな北野地区で野菜農家を営まれています。伊藤さんは「自分がこどもの頃と比べると三鷹の緑は減っています。現在、北野は東京外かく環状道路工事が進み、まちが大きく変わっています。北野をはじめ三鷹の緑ある風景や森を守り育てることを伝え、未来につなげていきたいですね」と話します。そして自ら小学校の先生に提案し、三鷹市内の二つの小学校で実際に出張授業を行うなど精力的に活動されています。
「以前イベントで小学生や参加者の人たちが植えたさまざまな種類のどんぐりの苗木が、今では芽を出し成長しています。」と、カゴいっぱいにどんぐりから育った苗木を持って来てくれました。ブナやカシ、ナラの木など葉っぱの形で種類が異なることが分かります。現在は、コロナ禍ということもあって伊藤さんが学校から引き受け、ご自宅の敷地で育成管理をされているそうです。
体験で植えられた木を、ゆくゆくは市内の適した公園に移植したり、公共の土地に植栽したり、小学校の二分の一成人式などで記念樹として植えることができたら、といったことも考えているそうです。
- 以前、どんぐり蒔き体験で参加者が植えた苗木の数々が芽を出して育っています。
地域で緑を循環させる『緑の地産地育』にも取り組む
どんぐりは野川公園や井の頭恩賜公園、国際基督教大学(ICU)の森や雑木林など三鷹市内で自然や木が多くある場所から伊藤さんが採取してきたもので、市内で集めたものを使うことで、地域で緑を循環させ、「世代が変わっても、木や緑が残っていることが三鷹という地域への愛着になってくれたらいいと思っています。そして、よりいっそう地域に愛着を感じるようになって欲しい。」と二人は口をそろえて語ってくれました。また、苗木のポットの土には国際基督教大学の敷地内の落ち葉から作ったエコ堆肥を使い、緑を地域で作り育てる『地産地育』にも意識的に取り組んでいるそうです。
「どんぐりから木を育てるのは植え方や育て方にコツがいるので手間がかかります。放っておいても育つと思われるかもしれませんが、人間の赤ちゃんを育てるのとそれほど変わりないと思ってもらえれば。」と小林さん。今育てている苗木の芽が出たときは、伊藤さんの小学生のお子さんも喜んでいたそうです。「ちょうどコロナ禍が始まり学校が休校していた時に芽が出たので、生徒の皆さんにも見せてあげたかったですね。」と話してくれました。
- 野菜農家の伊藤紀幸さんは小学校で「どんぐりプロジェクト」の授業をしたり、イベントで植えた苗木を育てたりしています
活動や発信はまだまだこれから。意見をもらって広げていきたい。
三鷹どんぐりプロジェクトの活動自体は、2年前の2019年から始まりましたが、2020年にコロナ禍に見舞われたことや、普段は本業をお持ちの農家さん主体の取り組みであることから、活動や発信は広く活発にできていないと感じているそうです。しかし、この取材をきっかけに色々な人から意見をもらい、協力しながら進めていきたいと語ってくれました。
まちに暮らす人やこどもたちにとってより良い形にしていき、また『緑農』をテーマに農業を通じて三鷹の緑を残したい、大切さを伝えたいというのが、小林さんや伊藤さんの願いです。今後、興味・関心のある地域住民の方から今後ぜひ意見を聞いたり、取り入れたりしていきたいと話します。
三鷹は住みやすく、落ち着いていてバランスの取れたまちだと言う人も多く、市としても「緑と水の公園都市」というキャッチフレーズを掲げています。「誰かがどこかで作らないと木だって育たないし、増えていかないんです。まずは種を蒔き続けて、10年後、20年後、子どもたちに想い出してもらえるといいですね。」と熱く語ってくれた小林さん。「まちを良くしたい」「子どもたちのために良い環境を残したい」という想いがつながって、まちが変わっていくのだなと実感しました。
そのそれぞれの想いを皆で応援し、つなげていきたいですね。
- 「三鷹どんぐりプロジェクトをこれから広げていきたい。
今はその途上で、ご意見・ご参加もお待ちしています」と語る小林さんと伊藤さん
三鷹市内のいろいろな活動や物事をウォッチしたいライター石井将直が、私たちの暮らしを豊かにするために、三鷹市内で新たなことにチャレンジしている様々な取り組みや人を紹介します。
ライター:石井将直