過去受賞者の声
2023年度 ビジネスプラン部門
最優秀賞
JR中央線コミュニティデザイン賞
美大生と社会との繋がりを作る『小さな美術館』
坂上 大斗 さん
「美大生の友人の夢」を聞いて火がついた
一般の方に作品を見てもらう機会がなく、夢が潰えてしまうかもしれない美大生の発表の機会と利益の循環を生むプロジェクト『小さな美術館』。若者の活躍とアート文化の繁栄を目指しています。メインはアートレンタル事業。主に飲食店や企業など、作品を借りる施設のオーナーは低額で内装を変えられます。また美大生を応援することでの話題作りや、集客力の向上を提供することを可能にしたプロジェクトです。
このプロジェクトの立ち上げメンバー坂上さんからバトンタッチされ、現在代表を務める矢内鉄朗さんは「美大生の友人が夢を追いかけているのを見て、応援したいと思った」ことが企画のきっかけだったと語ります。
起業家の卵と美大生、互いの凸凹のマッチング
「小さな美術館」のプロジェクトメンバーは、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部に通う現役大学生です。「1年間で売上をあげる」という授業課題があり、様々なビジネスアイデアについて議論し合いました。その中で矢内さんは、美大生の友人のことを思い出したそうです。高校生の頃に一緒にサッカーをやっていた仲間で、美大に進んだ友人がアーティストとして活躍するという夢をもって作品を作り続けるのを見て「かっこいいな」と感じたそうです。
自分はサッカーを辞め、夢を失っていたこともあり、「好きなことで稼いでいきたい」と夢を持ち続け作品作りをする美大生の友人が、社会の中で生きにくそうにしている現状を見て、どうにかサポートできないかと考えました。そこで思いついたのが、「ビジネス」と「アート」のマッチングです。「まず、彼らが何に困っているのか知るために、100人くらいの美大生にヒアリングを行いました。美大では表現の仕方は学ぶけれど、仕事やビジネスへの繋げ方は学びません。逆にビジネスを学ぶ私たちと組むことで、お互いの学びが活かしあえるのではないかと思いました。」と語られました。
アートを気軽に楽しめる身近なものに
美大生が作成した作品を購入またはレンタルすることで、施設側がその作品をインテリアの一つとして展示することができるサービスが「小さな美術館」です。「多くのお店や企業でも、実際のアートに触れる機会が少ないという現状があると感じています。美大生が個展を開いても、来るのは美術に興味のある人が殆どです。このサービスを始めることで、普段の生活でアートにあまり関わりがない方でも気軽に作品に触れることができる小さなきっかけを作りたいと思っています。」と、プロジェクトメンバーは語ります。
また、「美大生にとっては、利益の循環だけでなく社会とのつながりを持つことが大切だと感じています。」と語るメンバー。「金銭的な価値よりもっと大切なのは、彼らの作品が多くの人の目に触れて、フィードバックをもらうこと。そして、企業とのコラボレーションなど一緒に企画や仕事をするチャンスを増やすことだと思っています。」
小さな美術館では、すでに名古屋の企業と共同でコンペティション企画なども立ち上げたことがあるそうです。
「実際にアーティストとつながりたくても、企業側から大学生個人へは連絡しにくいと感じます。お互いをいい関係を築きながら繋いでいきたいです。」と語るのは代表メンバーの矢内さん。今後は、アーティストとして登録をした美大生へのフィードバック機能なども充実させていくそうです。学生同士が手を取り合うことで、夢が大きく広がっていく未来が想像できました。
優秀賞
がんの治療から表情を守るがん医療アートメイクを医療の新常識に
一般社団法人全日本がん脱毛医療アートメイク
石原 穂乃佳 さん
がん医療、アピアランスケアでの「盲点」
二人に一人はがんになると言われる時代。がん治療は進歩していますが、抗がん剤治療の副作用である「眉毛」の脱毛のケアに関しては、医療機関でもほとんど目を向けられていません。この課題を解決するため、石原さんは「一般社団法人全日本がん脱毛医療アートメイク」を立ち上げました。医療アートメイクをアピアランスケアの新基準にすることを目指し、施術ができる環境を整える活動に取り組んでいます。
アピアランスケアとは、医療用語で「外見のケア」のこと。脱毛や皮膚障害など、抗がん剤治療の副作用で現れるさまざまな症状に対し、その人らしく社会生活を送れるよう患者さんをケアすることを指します。治療が始まる前にウィッグなどの準備を案内することもそのひとつです。髪の毛の脱毛は比較的知られていますが、あまり知られていないのが眉毛の脱毛。実はかなりの確率で生じるそうですが、治療前には想像できない患者が多く、アピアランスケアの盲点になっていると石原さんは言います。
治療以外の心理的負担を減らすために
子どもの頃から眉毛が薄いことがコンプレックスだったという石原さんは、学生の時に眉のアートメイクを経験していました。その後、看護師として医療現場で働くようになったころ、法律が変わり、アートメイクが医療行為になったことを耳にします。「自分がかつて困っていたことを、看護師の仕事として解決することができる」と思い、すぐに資格を取得。医療アートメイクアーティストへと転身します。
転機は、あるがん患者さんとの出会いでした。その方は、抗がん剤治療の副作用で眉毛が抜けてきたことが気になり、「自分の顔が変わっていくのが不安。アートメイクを受けたい」と石原さんの元を訪れました。しかし、当時は眉毛が抜けてしまった人への施術に対応する知識がなく、断るしかありませんでした。「それだったら、抗がん剤の治療を受ける前に知りたかった。」と言われ、眉患者にとって眉毛が抜けることはとてもショックが大きいことに初めて気付いたそうです。
一度抜けてしまった眉毛の毛根が完全に戻るまでには長い時間がかかります。石原さんは、抗がん剤治療を受ける前に「医療アートメイク」という選択肢があることを医療現場から発信してもらいたいと考えました。「がんの通院治療をしている方の中には、家事・育児・仕事など社会と関わりながら生活している方も多いです。外見が変わることへの不安を軽くして、心理的負担を減らすことは、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に大きく関わってくると思います。」
全国の看護師とチーム連携して認知を広めたい
日本では「アートメイク」という言葉そのものの認知度が低く、さらに医療行為であることも知られていない現状があります。MRIに対応可能なアートメイクがあることもあまり知られていません。アートメイクに対する正しい情報を届けるため、石原さんは「おまもりアートメイク」というホームページを立ち上げました。現在はSNSなどをとおして、がん患者さん向けに発信をしています。
また、アートメイクは施術料も高価であり、価格を下げて提供したくても病院側の協力がないと難しいと言います。「がん患者は全国にたくさんいます。私個人の力で現場に影響を与えることは難しいと考え、起業を決意しました。各都道府県にひとつは施術ができるクリニックがある状況にすることが今後の目標です。」と語る石原さん。そのために石原さんは全国にいるアートメイクの施術者や看護師同士のネットワークを作り、確かな知識と技術を持ったアーティストの「アピアランスケアチーム作り」に動き出しています。チームで連携し、がん専門の病院やクリニックにパンフレットをおいてもらうなど、協賛・協力してもらえる病院を増やしていくことが目標です。「困っている人に技術を届けたい」という石原さんの想いは、現在、福岡・大阪などにも広がり始めています。
三鷹発ベンチャー賞
未来をつなぐ同行援護事業所~音の輪プロジェクト~
DIH Creation合同会社
大江 貴子 さん
ミュージシャンと視覚障害者の出会いから生まれた事業アイデア
「同行援護」とは、視覚障害者の外出時などに付き添いサポートするサービスです。このサービスを利用する方も、同行援護の従事者であるガイドヘルパーも高齢者が多いという現在の状況を踏まえ、若い人も気軽に利用できる新しいスタイルを目指すことが、大江さんの「音の輪プロジェクト」です。若い障害者の活動の範囲が広がることで新たな社会貢献への相乗効果も視野に入れた取り組みです。
ミュージシャンとして活動中の大江さんは、ある視覚障害者との出会いをきっかけに、同行援護のサービスを知りました。その方はこのサービスの利用者で、ガイドヘルパーに依頼をして出かけているということを聞いたのです。「あなたもガイドヘルパーをやってみたら。」と誘われ、ガイドヘルパーの資格を取得。当時はコロナ禍で、ライブなどのミュージシャンとしての活動も難しい状況でした。大江さんは、空き時間にガイドヘルパーとして働きはじめました。
利用者に付き添うことで喜んでもらえるのはもちろん、サポートしたり、食事を共にしたりと、心の距離感も近づきます。人の温かみに触れられる仕事だと感じつつ、ガイドヘルパーを続けました。
助け合いの輪で、みんなが恩恵を受けられる仕組みに
ガイドヘルパーを続ける中で、同行援護サービスの利用者だけでなく、登録している同行援護従事者も高齢化していることに気づきます。同行援護事業のサービスが始まった2011年当初から利用者もガイドヘルパーもそのまま歳を重ねられ、若い視覚障害者はあまりそのサービスを使っていないという現状がありました。若年層にもっと認知を広げる必要性を感じたそうです。
そんな時、大江さんが同行援護をしていた方が突然亡くなるという出来事がありました。人生は何が起きるかわからない、もっと自分の人生を大事にしなくてはいけない。と実感したそうです。この経験が大江さんの心に火をつけ、起業への挑戦につながりました。大江さんは、ミュージシャン活動の中でも、視覚障害者と一緒にライブをするなど積極的に交流をはかっています。「何かを成し遂げたいと思ったら、自分で行動してチャンスを掴んでいく必要がある。でも、視覚障害者は外出するにもハードルがあると思うので、行動を抑制するものを減らしてあげたい。」と語る大江さん。
ガイドヘルパーも可能な限り高時給で提供する仕組みにしたいと大江さんは語ります。「ミュージシャンなどを目指す方には、活動費を稼ぐためにアルバイトで苦労する人も多いです。そのような若者たちに、ガイドヘルパーという仕事を紹介して、お金のために働くのではなく、人のためになる仕事で収入を得る経験をして欲しい。人間味のある仕事が、成長の糧になるのではないかと考えました。
そういった想いから生まれたのが「音の輪プロジェクト」。音から情報を得る視覚障害者と、ミュージシャンやアーティストを目指す若者をつないで、いい循環を生み出したいという意図が込められています。
SNSツールやアプリ開発で若者にも波及を
「自分だけで動いていても大きなことはできない。どうやって多くの人を巻き込んでいくかが今後の課題です。」という大江さん。まずは三鷹で1店舗成功例を作り、その後はフランチャイズ化して関東での事業展開を目指しています。また、いずれはアプリ開発をして、今はほぼ人力で行っているガイドヘルパーの派遣業務を、システム化する構想もあります。「若い人も利用しやすいよう、利用者がスマートフォンからオーダーでき、ガイドヘルパーとすぐマッチングできる仕組みにしたいです。」
利用者とガイドヘルパーのいい出会いを生むことで、新しい循環が生まれる。そんな温かい「音の輪」のビジョンが、大江さんのお話から見えてきました。
三鷹発ベンチャー賞
教室から世界と繋がる!国際的な視野を広げるプロジェクト
Ukulele★Paradise(ウクレレ★パラダイス)
高嶋 尚子 さん
音楽をとおして国際的な視野を身につける教育を
公立小学校の授業にウクレレを導入し、音楽をとおして世界とつながる総合学習を子どもたちに提供することが「Ukulele★Paradise(ウクレレ★パラダイス)」代表・高嶋さんのプロジェクトです。英語や音楽という単体の授業ではなく、包括的なコンテンツで国際的な視野を持った子どもの育成に取り組んでいます。現在、既に三鷹市内の6つの小学校で導入の実績があり、今後は三鷹市をモデルとしてその他多くの市区町村への導入を目指しています。
このプロジェクトを立ち上げる前は10年以上旅行会社に勤めていたという高嶋さん。その中で、ベリーダンスやウクレレを習っている人と一緒に現地に行き、現地の人と交流するなど、「旅と文化」をテーマにしたツアーを企画した経験がありました。実際に、言語が異なっていても音楽を媒介として人との距離を近づけてくれる現場を何度も経験されたそうです。
コロナ禍を経て気づいた弦楽器の魅力
小学校教育に弦楽器を取り入れるというアイデアは、以前から考えていたそうです。「日本の学校教育の音楽は、笛やピアニカなど、単音のメロディーを習うことが多いと思います。和音を習うことにより、誰かの歌と合わせたり、伴奏したりと幅が生まれるので、もう少し和音の教育があっても良いのではないかと思っていました。」と語る高嶋さん。
その後、コロナ禍が訪れ、飛沫感染予防の観点から、子どもたちが合唱したり、笛を吹いたりする授業ができなくなりました。弦楽器であるウクレレは、飛沫の心配もなく音楽を楽しめることが導入のきっかけになりました。また、2019年に発表されたGIGAスクール構想でタブレット学習が一気に普及したことや、2020年から小学3年生での英語教育が必修となったことも、プロジェクトへの追い風になりました。荒川区の小学校への導入事例では、ICT教育の一環としてプロジェクトの実施が決まりました。「子どもたちがタブレットで世界と繋がり、アプリ使ってお互いに質問しあう研究授業をしました。海外の文化を知ることで、日本の良さにも気づくことができると感じます。」と語られました。
「実際に授業をしてみると、子どもたちの気づきやその中から発せられる言葉が興味深く、お互いの学びになる。」と語る高嶋さん。その場で子どもたち同士の交流が生まれるのも魅力だそうで、音楽以外の側面でも多様な学びができるコンテンツになっています。
ウクレレは、自分の世界を広げてくれる“魔法の楽器”
「ウクレレは人生に多くのきっかけを与えてくれる“魔法の楽器”です。ウクレレスクールを始めて26年間経ちますが、全然飽きません。」と笑顔で語る高嶋さん。子どもが扱うことができ、挑戦しやすく、多世代で繋がりやすい、そんな音楽的な魅力がたくさん詰まった楽器。ウクレレをとおして「誰かと一緒に何かをする喜び」を創りたいと、高嶋さんは考えています。「人が一人でできることは限られていると感じます。授業をとおして繋がりを作り、生きることの楽しさを感じ、楽しみの選択肢を増やしたいという想いで取り組んでいます。
このプロジェクトは、2024年度中に10校の導入が決まっています。今後は三鷹市以外の近接地域、そして東京都全域に広げることを目指しています。また、いずれは実際に子どもたちと一緒にハワイに行き、現地の子どもたちと交流し、ボランティアに参加するなどの「文化交流プログラム」の企画も考えているそうです。高嶋さんのモットーは“生活にひとつ彩りを”。「ウクレレを弾いてみたいという人がいれば、すぐに駆けつけます!」と語る姿からは、ウクレレへの愛情と、プロジェクトへの熱い想いが溢れていました。
2022年度 ビジネスプラン部門
最優秀賞
アフターコロナ時代の家庭の悩みをワンストップで解決する ~まなびナビの「窓口」~
まなびナビ合同会社
中河西 慎平 さん
増え続けている不登校児
文部科学省の調査によると、2020年の不登校児は20万人、2021年は25万人と1年で5万人もの不登校児が増えています。多様化する家庭環境や子どもたちが抱える問題が複雑化していることに加え、コロナによる生活環境の変化は子どもたちの学習環境にも大きく影響しています。さまざまな要因で、「学校の学習環境と合わない」と感じる子どもたちが増えている中で、子ども一人ひとりの学習ニーズに対応したいと考えます。
「子どもたちへ新たな学習の機会をつくりたい」という想いで会社を立ち上げた、まなびナビ合同会社代表の中河西慎平(なこうさい しんぺい)さんにお話を伺いました。
教育業界で「勉強すること」の本質を考えた
10年ほど学習塾の教育現場で仕事をされていた中河西さん。そこで見えてきたのは、子どもたちの学習の機会が家庭の収入に影響を受けてしまう現実でした。
学習塾に通うには、個別指導や受験シーズンには、毎月10万円以上の教育費が必要です。費用がかかるため、学びたい子どもたちや学ばせたい家庭のニーズに合わず、学ぶ機会を得ることができない家庭も多く見られます。
そのような中で5年ほど前に、家庭教師として独立しました。家庭教師をしていて見えてきたのが、登校が安定しない子どもたちがいること。学ぶ環境は学校が全てではない。学校以外で子どもたちが学ぶことを楽しめる仕組みを作り、できるだけ多くの子どもたちに対し貴重な学習機会をつくっていきたい。そんな想いで、2021年に「まなびナビ合同会社」を立ち上げました。
オンラインでの学習支援
現在は、オンラインプログラムを中心に、学校での集団生活に馴染めないと感じる子どもに対し、一人ひとりの個性に合わせたペースで「まなびナビ」のカリキュラムを提供しています。「まなびナビ」は、不登校の子どもにフォーカスしただけではなく、学習塾としての利用など、勉強すること自体を楽しめるサービスにしていきたいと考えています。
専門講師による、国語・英語・数学・理科・社会などの学習に加え、施設などに入所している子どもたちへの教育サポートや、一人ひとりが抱える課題に対し、対面での支援もしています。さらには、子どもの課題に向き合う保護者に対し、“お話会”や“交流会”などを開催し、子どもたちを取り巻く環境にも配慮したサービスを展開しています。
中河西さんからのエールです。
学びに対する「前向きな姿勢」が人生をつくる。これがまなびナビの理念です。
何らかの理由で学校に行くことができなくても、それを理由に学ぶことを嫌いになってしまうのはもったいない。
学校以外で一人ひとりに合った、学ぶ環境があれば、どんな子どもたちも自分の力で人生を切り拓いていくことができると信じています。勉強が嫌いでも「学ぶこと」は楽しいことです。ぜひ諦めずに自分の未来を作っていってほしいと思います。
優秀賞
ヒトとワンコがシェアできる「ペット共生食」で真の家族化を支える事業
株式会社 ワンズデイリー
森崎成仁さん
ペットは「飼う」から「共生する」時代へ
かつてはヒトが犬や猫を「飼う」という意味合いが強かった関係性が、近年変わり始めています。
核家族化や、コロナ禍でペットを迎える人が増え、今では多くの人がペットを家族として認識し、家の中で一緒に暮らしています。まさに「ペットの家族化」であり、「ヒト」と「ペット」の関係ではなく、犬も猫も「家族の一員」として共に生きていく大切な存在になっています。
しかし、その一方でペットの食や健康を意識している人はどのくらいいるでしょうか。同じ家族としてペットの健康寿命を守ることは、飼い主の責任だと考えています。
そこで、ヒトとワンコがシェアできる「ペット共生食」事業を展開している、株式会社ワンズデイリーの森崎 成仁(もりさき しげひと)さんにお話を伺いました。
愛犬の不調をきっかけに犬の健康への意識が変わった
森崎さんの愛犬の陸(リク)が2歳になる頃、陸のおなかのあたりに赤い湿疹ができて痒がるようになりました。病院に連れていくと、「食べ物のアレルギーによる湿疹」と診断を受けたそうです。その後、森崎さんは犬の健康について調べ、無添加の手作りごはんを作り始めたところ、みるみるうち陸の湿疹は改善し、元気になっていきました。この出来事をきっかけに、日々の食事がペットに与える影響について考え始め、「ペットも人間と同じように、食が健康をつくる」ことを痛感しました。
森崎さんは、ペット食として販売されている商品のほとんどが「食品」ではなく、「雑貨」として販売されていることを知り、驚きました。そこで、人間の食と健康を扱うフードコーディネーターをしていた奥さんの繭香(まゆか)さんとともに、「犬が安心・安全に食べられるおやつとごはんを提供する事業」を立ち上げ、スタートさせました。
ヒトとワンコがシェアできるおやつ
株式会社ワンズデイリーが提供する「ペット共生食」は「雑貨」ではなく「食品」であり、ヒトと犬にとって安心・安全な食事です。また、犬の健康に寄り添った、身体にやさしく無添加で人間も犬も美味しく食べられることを重要視して作っています。さらに保健所の審査を受け、人間の「食品」として販売できる安全な品質のものだけを製造しているため、人間が食べても美味しく、さらに犬にとっても体にやさしく美味しいおやつです。犬と同じものを食べることに抵抗を感じる人もいるそうですが、「犬の食べもの」、「人間の食べもの」と区別せず、ペットと一緒のおやつで安心できる幸せな時間を過ごしてほしいと考えています。
ペット共生食で文化を変える
ペットは家族の一員として、我が子のように愛情を注いでいきたい存在です。共に暮らし、時には感情を共有して、できるだけ長く一緒に生きていきたいと願う方も多いでしょう。「同じ釜の飯を食う」という言葉のように、ヒトとワンコのどちらにとっても安全で美味しい食事をシェアすることで、ペットの真の家族化を目指し、場所や時間だけでなく心を共にするきっかけとなってほしいと思います。
三鷹発ベンチャー賞
エシカルを三鷹から世界へ
Menary
木住野 舞 さん
赤いリップは女性に自信と美しさを与えます
赤いリップをつけるだけで、背筋がピンと伸びて自然とポジティブな気持ちになります。そしてそれがスイッチとなって、明るい笑顔になり、周りの人にも笑顔が広がります。赤いリップをつけることは、素晴らしいパワーをもっています。
そう語るのは、日本初のプラスチックフリーのエシカルリップを開発したMenary代表の木住野舞(きしの まい)さん。
未経験から起業し、日本初となる商品の開発は苦労の連続。完成までに1年以上を費やして、こだわり貫いた木住野さんの想いには、赤いリップをとおして世界に届けたい、様々なメッセージが込められていました。
海外生活で見えてきた女性としての生き方
海外ボランティアやシンガポールで働いた経験のある木住野さん。木住野さんにとって、読み書きができることや、教育を受けること、そして自分自身が希望する道への選択肢があることは当たり前でした。しかし、海外生活で見えてきたのは、教育格差や人種差別の被害に遭っている女性たちでした。海外の女性の生き方や考え方に触れ、自分自身の生き方について考えさせられたそうです。さらに、シンガポールの勤務先のホテルで人と接するうちに、メイクが与えてくれるパワーにも気づきました。特に赤いリップをつけることで気持ちがポジティブに高められ、自分らしさを表現できることに気づき、化粧品開発を始めるきっかけになったそうです。
日本に帰国し、今後のキャリアプランと向き合い、「女性として私にできること」を考えた時に、これまでの経験から辿り着いた答えは、“女性が前向きになれるきっかけとなるものを作りたい”でした。
未経験から化粧品業界で日本初のリップをつくる
SDGsやエシカルの考え方が少しずつ浸透してきた昨今。しかし今でも、プラスチックによる海洋汚染は深刻で、日本では年間850万トンものプラスチックのごみが海に流れ込んでいるといいます。しかしながら、化粧品の容器の99%がプラスチックを使用しているそうです。環境汚染や動物実験の上で作られた美しさは、果たして本当の美しさと言えるのでしょうか。Menaryの赤リップ「BENI」を作る際、味や質感、サイズ感はもちろんのこと、プラスチックフリーのリップを目指しました。
また、未経験でコネクションもない状態から始まった商品開発は、新しいことへの挑戦の連続でした。日本で口紅が作られる過程では、プラスチックの型枠があり、そこに口紅の原料を入れていくシステムがほとんどです。日本では作られていない容器の形や紙を素材として、共に一から作り上げてくれる企業を見つけることからスタートしました。最初は話しすら聞いてもらえず、化粧品開発への壁の高さを感じました。
時間的にもコスト的にも苦労することはたくさんありましたが、“私が作り上げる意味”を常に考え、決して妥協はせず、300社以上の企業へ提案を重ねた結果、ようやくカタチにしてもらえる企業と出会うことができました。
BENIに込められたメッセージ
Menaryの赤リップ「BENI」のコンセプトは「エシカル×エンパワーメント(自信をつけるという意味)」。赤いリップは自然と女性を内面から輝かせ、自然と“赤いリップをつけている私”になれる。それは、赤いリップがもたらすエンパワーメントの力です。
流行りのメイクで周りと同じになるのではなく、女性たちが本来持っているそれぞれの美しさに自信を与えてくれるのが赤リップ「BENI」です。
ありのままの自分を愛し、自分らしく胸を張って生きていく女性を増やしていきたいと考えています。
2021年度 ビジネスプラン部門
最優秀賞
小さな宿と旅のファンを結ぶ ~やどふぁん~
株式会社 たびふぁん
西岡貴史 さん
コロナ禍の中小宿を救う旅好きのニッチな需要発掘ビジネス
コロナ禍を経て人々の旅行に対する価値観が少し変化しました。大きな旅行から小さな旅行へ変化し、近場の旅行を楽しむ「マイクロツーリズム」も普及しました。そこからヒントを得たのが、西岡さんのビジネスプラン「やどふぁん」です。人気の宿・観光地に多くの人を送る、という今までのモデルではなく、ニッチな宿・観光地に興味を持った人を案内し、旅行市場における「旅のロングテール」という新たな需要を掘り起こすものです。
西岡さんが宿泊した小さな宿での体験がきっかけでした。その宿に泊まっているのは西岡さん1人だったのに、隣の旅館は満室。ではその宿の質が悪かったのか?というとそうではなく、おもてなし、眺望、接客、料理、全て良かったとのこと。この状況に疑問を感じ、実際にたくさんの宿を巡り、調査を開始。すると検索エンジンでの表示順位が宿の資本力に影響されてしまい、いい宿でも「ニッチで資本力が弱い宿=認知度が低い宿」であるという状況がわかりました。
そこで、小さな宿と旅のファンを結ぶために考案されたのが「やどふぁん」事業です。検索エンジンの表示順位ではなく、ユーザーからの「いいね」の数で決まるSNSを告知ツールとして使用。マイクロインフルエンサーを活用し、旅行者視点の投稿で宿の魅力を知らせることができます。
「ワクワクで旅をデザインする」をビジョンに掲げ、「旅そのものが、最大の地方・地域活性だと思っています。」という西岡さん。「地元の人から見た魅力ではなく、余所者だからわかる魅力を伝えていければ、地元の人が分からなかった新しい価値も生まれるのではないか」と未来への期待を語られました。
「三鷹」という土地で受賞でき、新たなアイデアも生まれた。
ビジネスプランコンテスト自体は、いくつか応募した経験があった西岡さん。「みたかビジネスプランコンテスト」は、事業内容や事業場所が三鷹という土地に関係がなくても応募できるという取り組みが面白いと感じ、応募されたそうです。
小さい地域や宿がビジネスのテーマのため、コロナで実証実験ができない時期がありました。地方ではないと事業が成り立たないのか?都市圏でも地方と同じことが成り立つのか?と何度も仮説を立て考えたそうです。優秀賞を受賞したことで行政とも繋がりができ「三鷹でもこのモデルは実現できるのではないか?」と感じ、三鷹を「旅の出発点」と捉える新たなマイクロツーリズムのアイデアも生まれました。
さまざまな観点で感じた、コンテストに挑戦する魅力。
「三鷹市はインパクトがある町で、文化的に魅力のある街だという面白さがある。応募者に対して門戸が広いので、チャレンジする場としてとてもいいコンテストだと思いました。」と語る西岡さん。
技術的な側面ではなく、事業の「価値観」で評価してもらえたことも、自信につながるポイントだったそうです。
「審査委員の方からフィードバックをいただき、事業の魅力を新たな観点から相手にわかりやすくまとめることができました。チャレンジをきっかけに広がる可能性もたくさんあると思います。」と背中を押すメッセージを語られました。
優秀賞
マイカーがあれば誰でも広告収入が得られる「With Drive」
株式会社 Essen
橘健吾 さん
広告効果が見えないオフライン広告の課題にひとつのソリューションを
車両屋外広告サービス「With Drive」は、所有の車両に広告を掲載して収入を得たい「ドライバー」と、広告を車両に掲示して認知を広げたい「広告主」をつなげる革新的な広告プラットフォームです。
以前より車で旅をするのが好きだった橘さんは、東京大学大学院の入試勉強旅行をしている最中、スポンサーを得ながら自転車で日本一周をしている人を見かけ、それが今回のビジネスプランのアイデアの種になったそうです。その後、コロナ禍で時間的余裕が生まれた時に、「一緒に何かやりたい」という有志の仲間たちとアイデアを持ち寄ったことが事業の具体化へとつながりました。
「Web広告に比べ、街にある看板などオフライン広告は効果測定が難しい。そのため広告を掲示する側もPDCAが回しづらく、広告運用が困難な分野です。そこで「With Drive」では、ドライバーが持つアプリから共有された走行情報と、人や車の流れが分かる空間統計データを用い、広告が閲覧された場所や回数を可視化できるようにしました。」と語る橘さん。
ドライバーは「With Drive」のサービスに登録した後、車両に広告シールを貼り付けます。対象エリア内で広告価値が発生するルートを走行すると、ドライバーが広告収入を得られる仕組みです。個人・法人問わず、車を持っている人なら誰でも広告塔になれます。しかも、AIデータを用いることで、オフライン広告では実現しにくい「ターゲティング」も可能にしました。
全国展開に向けた足掛かりとして受賞が大きなステップに
現役の東京大学院生である橘さん。東大のキャンパスが三鷹にあり、今回のコンテストの告知を偶然目にしたのだとか。
2021年8月に法人を設立。今までは神奈川県川崎市を提供エリアとして絞り、川崎市内の様々な企業で利用されていますが、今後は東京、そして全国へ展開を構想されているそうです。「東京都でサービス提供を始めるにあたって、都心より車の所持率が高い郊外にスポットを当てています。三鷹が東京展開の拠点になるといいですね。」と語る橘さん。
また、アプリのリリースからほどなくして、ベンチャーキャピタルから資金調達をすることにも成功。「受賞」という信頼性が、資金調達の弾みにもなったそうです。
コンテスト応募で自らの成長促進を。
トータルで4つのコンテストに応募したという橘さん。「知名度を上げることや、外部への壁打ち、フィードバックによりビジネスプランを洗練させることなど、応募の目的は様々だと思いますが、やはり人に見てもらうこと、行動することが、とても大切だと思います。応募の準備だけでも事業のブラッシュアップになります。せっかく応募するのであれば、自分たちの成長のためだと思って力を込めるといいですね!」と熱いメッセージを語られました。
優秀賞
3Dフードプリンターで作る「パーソナライズ栄養食」で現代栄養失調を救う
Byte Bites株式会社
若杉亮介 さん
大学生の頃から3Dフードプリンターの研究に携わってきた若杉さん。「これまでみたことがないような食体験を広げる」をテーマに研究を進める中で、看護領域や教育領域など、他の分野でも価値が発揮されるのではないか、と考えられたそうです。
そこで生まれたアイデアが、「3Dフードプリンターで作るパーソナライズ栄養食」です。飽食の時代と言われている現代ですが、近年栄養障害に陥る人が増えているといいます。太っていても低栄養だったり、カロリーは足りているが栄養素が偏っているなど、「現代版栄養失調」といわれ問題視されています。「現代人は一人ひとり食べているものが違うため、栄養の偏りもそれぞれです。しかし、今の栄養食品は画一的なものばかりです。個別最適な栄養素が求められると思います。3Dフードプリンターは、使用する素材を切り替えることができるため、その人に合った栄養食品を作ることが可能です。従来の大量生産とは異なり現代の需要・社会問題とマッチするのではないかと思い、ビジネスプランを考えました。」と語られました。
「未来の食を現実に」をビジョンに掲げ、魚のすり身を印刷した「3D構造体おでん」の試食会や、特殊な形で食感をデザインしたチョコレートの販売など、ユニークな企画を行ってきました。「食感のデザインの研究が進むことで、単調になりがちな介護食の食体験を豊かにする可能性があるのではないか。「食」はこれからDXの開拓のしがいがある領域だと思います。」と今後の展望を語る若杉さん。2022年8月には「School of Food Futures」という、未来の食をテーマにしたイベント(京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 主催)に、ゲスト講師として登壇される予定です。
審査でのフィードバックや事務局対応がありがたかった
みたかビジネスプランコンテストは、若杉さんがパーソナライズ栄養食で事業化し、起業するタイミングとちょうど一致したため応募を決めたそうです。「ひとことで現代版栄養失調といっても、性別や年代によって抱えている問題が異なります。どこに注力してやっていくのか?など、事業へのフィードバックをもらえたことがとても有益でした。また受賞後も、資金面での困りごとなど具体的な相談や副賞の代替案として、ものづくり施設の借用など、迅速にアレンジしていただけました。地元の銀行とのつながりもあり、事業化する上で全体的に相談がしやすく、親身になって考えてくれたことがとてもありがたかったです。」と喜びを語られました。
応募することで事業化のベース作りを
大学卒業後から様々なビジネスプランコンテストに応募したという若杉さん。「三鷹のビジネスプランコンテストは様々な地域から参加しやすく、オープンなビジネスプランコンテストでした。動画審査は、事前にレクチャーがあり、事業化するための基礎を作ることができました。応募する際もテンプレートがしっかりあって、自分のアイデアをそこにどう落とし込むかを考えることで、具体化できました。」と語る若杉さん。ひとりで事業化を進めるのは大変なこと。壁打ちや外部からのフィードバックの必要性など、ビジネスプランコンテストへの応募の利点を語られました。
優秀賞
「reanne」生理を可視化するデバイス
reanne
浅井しなの さん
婦人科系の病で苦しむ女性をひとりでも減らすために~「生理」を可視化するデバイスで「第二次生理革命」を。
中学生の頃から意識が飛ぶほどの生理痛と付き合ってきたという浅井さん。大学生の時に婦人科を受診したところ「子宮腺筋症」が発覚。放置していたら子宮を摘出しなければいけない病気であること、また、卵巣の年齢を表す数値(AMH)が閉経間近ということも告げられ衝撃を受けたそうです。「もっと早く受診していれば、早い段階で病気の進行を遅らせることができたはず…」そんな気づきから、同じような悩みを持つ女性を救うための事業を立ち上げようと考えました。それが、「reanne(リアンネ)」です。
「reanne」には、かつて日本初のナプキン「アンネナプキン」が女性たちに革命を起こしたように、新しい生理との付き合い方を提案し「第二次生理革命」を起こす、という意味が込められています。一口に生理と言っても、悩みや問題は色々。起業しようと決意した時から、さまざまなプランを考えたそうですが、根本的な問題解決のためにたどり着いたのが「生理を可視化するデバイス開発」でした。経血の量や成分を検知し、その時の健康状態をスマートフォンアプリで見えるようにするものです。
病気の発覚後、浅井さんは生理の悩みをTikTokで発信していました。そこでフォロワーから寄せられた悩みの多くが、「辛さをわかってもらえない」というものだったそうです。「生理の悩みは他人と共有するのは難しい。だからこそ異常にも気づけず、辛くても我慢している女性がたくさんいます。アプリをきっかけに、もっと自分の体と向き合ってもらえるようにしたい。」と浅井さん。
医療の分野でも、婦人科系の症状は未だ病気の原因や治療法が明確ではない現状もあります。「reanne」の事業を通じて集まったデータを研究に役立てることで、将来的に生理の悩みが消えてほしいという大きな目標を掲げています。
受賞をきっかけに想いが伝わり、心強いつながりができた。
起業していない段階のアイデアのフェーズで応募できるビジネスプランコンテストを探し「みたかビジネスプランコンテスト」を見つけたという浅井さん。コンテストに応募したことで、SNSなどでも反応があり、応援してくれる人が増えたとのこと。さらに「受賞」という結果を得られたことで、医療関連の企業や医者、母校である東京薬科大学の教授やIOTエンジニアなど、開発のキーパーソンとなる人たちと繋がることできたそうです。 ハードであるデバイスを作るという事業は、なかなかハードルが高く大変なこと。「まだ報酬があるわけでもなく、売上げも立てられていない段階ですが、想いに共感して“手伝いたい”という人が増えたことがとてもありがたいです。」と感謝の気持ちを語られました。
コンテストへの応募は、挑戦段階からとても意味のあることだった。
起業は代表者ひとりで全てを抱え、永遠に自分の中で完結しがち。コンテストに応募するには、事業計画書の提出などハードルはありますが、浅井さんは、書類審査などの締め切りがあることで、物事を前に進めるペースメイクができたそうです。
「審査段階で言語化することで、事業のブラッシュアップができました。初めて会った方に企画をきちんと伝える練習にもなったので、迷っている方はぜひ挑戦するのをお勧めしたいです。」と素敵な笑顔で語られました。